2025.11.19
吉田院長のけん玉BLOG
日月ボールの読み方
日月ボールの読み方

広辞苑では『じつげつボール』、けん玉の本では『にちげつボール』。
同じ言葉なのに、なぜ読み方が違うのだろう?

広辞苑(第七版)でけん玉を調べてみると、最後の一文に、

『大正時代から「じつげつボール」の名で十字型にした皿三つのものが流行。』

広辞苑(第七版 2018年)岩波書店

とある。

あれ?今までずっと「にちげつボール」と読んでましたけど。パソコンで「日月ボール」を検索したり、最近のけん玉の書籍を見てもほぼすべて、日月ボールの振り仮名は「にちげつぼーる」になっている。

あの広辞苑が間違えたのか。手元にあるのは、最新の第七版でしたので、少し古い版の広辞苑を遡って確認してみると、なんと1998年の第五版から「日月じつげつボールの名で」と追記されてる。

では、この「日月ボール」という言葉は、そもそもどこから生まれたのだろうか。

日月ボールと実用新案

呉市在住の江草濱次氏(岡山県出身)が、現在のけん玉を日月ボールの名前で1918年(大正7年)に実用新案として出願し、翌1919年(大正8年)に登録された。

J-PlatPatに掲載されている1919年登録の「日月ボール」の情報には、名称の読み方は記されていない。

そこで、日月ボールの読み方に関する情報を調べるため、「にちげつボール」と「じつげつボール」の両方をキーワードに国立国会図書館デジタルコレクションで検索を行うことにした。

国立国会図書館デジタルコレクションで検索すると

にちげつボール ・・・ 19件(出版年1968年~2000年)
じつげつボール ・・・ 8件(出版年1949年~1995年)

と、検索ヒット数では「にちげつぼーる」が圧倒的に多かった。
ただし、注目すべきは出版年の傾向である。

書籍の内容を見なければ正しい判断はできないが、国立国会図書館デジタルコレクションの検索機能の範囲では、1968年より前に「にちげつボール」と表記された資料は見当たらなかった。

このことから、実用新案登録当時(1919年頃)には「じつげつボール」と読まれていたのが、時代の経過とともに「にちげつボール」と読まれるようになった可能性が考えられる。

「日月ボール」の読み方は誰が決めるのか?

「日月ボール」は、一般名ではなく商品名である。そのため、読み方は実用新案を出願した江草濱次氏自身にあると考えられる。つまり、江草氏がどのようにこの名称を読んでいたかを知ることが、本来の正しい読み方を知る手がかりとなる。

さらに言えば、「日月」は当て字である可能性もあり、場合によっては「けんだまボール」など、全く別の読みを想定していた可能性すらある。このように考えると、「日月」を辞書で調べて「にちげつ」や「じつげつ」と読むことはヒントにはなっても答えではない、ということになる。

宣伝歌が見つかった

「日月ボール」の実用新案申請者・江草濱次氏本人が名称の読み方について直接記した記録や録音資料は、現在のところ確認されていない。しかし、販売当時には江草一家が日月ボールを実演しながら歌をうたっていたという記録があり、その歌詞の中に当時の「日月ボール」の呼び方が残されている可能性がある。調べてみると、次のような歌詞が見つかった。

『日月(じつげつ)ボールの音の数、一二や三つ四つ五つ六つと数へて七つになれば、私も尋常一学年あゝ嬉しいな嬉しいな、日月(じつげつ)ボールを買っておくれ学校へ行きます、勉強します。・・・』 文藝倶楽部(大正14年)

『日月(につげつ)ボールの音のかず、ひい ふう みい よう いつつむっつと数えてななつの春はわたしは尋常一年生・・・』 熊本宮崎のわらべ歌(昭和57年)

『ジツゲツ・ボール
たぶん日月ボールとでも書くのであろうと思っているが、今の言葉でいえばけん玉のことである。・・・・・・
「ジツゲツ・ボールの音の数 ヒー フー ミー ヨー イー ムー ナー 6つと数えて 7つになれば私は尋常一年生・・・・」 』 昔のくらしわたらせ(昭和63年)

これらの記録から、大正期には「ジツゲツ・ボール」と発音されていたことが確認できる。一方で、昭和後期の記録では「ニツゲツ・ボール」とも歌われており、
音の変化(ジ→ニ)が時代とともに生じたと考えられる。

遊びの名称は、子どもから子どもへ、親から子へと口頭で音として伝承されていくものであり、地域差や時代の流れの中で変化していくことが多い。この宣伝歌に見られる「ジツゲツ」から「ニツゲツ」への変化も、その自然な言葉の伝承過程を示す好例といえる。

呼ばれ方は時代とともに変化する。

「ベーゴマ」も、もとは「ばいごま」と呼ばれていた。

『古くは関西で、バイ貝を加工してつくられた「ばいごま」が元になった。大阪府や徳島県の遺跡から出土したり、書物の記述から少なくとも江戸時代初期には存在が確認されている。 のちに関東に伝わり、江戸言葉の影響で「ベエゴマ/ベイゴマ/ベーゴマ」と呼ばれるようになったと考えられる。』 『あそび』と『まなび』研究所 


「あすへの希い」(黒田了一著)の中で、誤読に注意の問題として「日月」が取り上げられている。正解は「にちげつ」ではなく「じつげつ」としながらも、

『なるべく正しく読みたいが、まちがった読み方をしないと通用しなくなりつつあるのだ。私などいつもとまどいながら、しぶしぶまちがった発音で妥協している。』

知事断章あすへの希い(昭和49年)

まとめ

「日月ボール」の読み方は、広辞苑第七版にあるように当初は「じつげつボール」とされていた。しかし時代を経る中で呼び名は揺れ動き、現在では「にちげつボール」が一般的となっている。

遊びの名前は、子どもから子どもへ音として受け継がれるうちに姿を変える。呼び名が変わっていくのも、けん玉が長く人の中で受け継がれてきたからだ。

文責 吉田有法 けん玉に関するお問い合わせ yoshida@daichinokai.com